家の天井裏から聞こえる物音や、キッチンに残されたフン。ねずみの侵入を確信した時、多くの人が最初に考えるのが「ホームセンターで粘着シートや毒餌を買ってきて、自分で駆除できないだろうか」ということです。費用を抑えたいという気持ちは痛いほど分かりますが、ねずみ駆除に関して、この「DIYによる対処」という選択は、百害あって一利なし、と断言できます。それは、時間と労力を無駄にするだけでなく、かえって被害を深刻化させてしまう、極めてリスクの高い賭けなのです。その最大の理由は、市販のグッズでは、ねずみの「巣(コロニー)」を根絶やしにすることが、ほぼ不可能だからです。私たちが家の中で見かけるねずみは、巣全体から見れば、ほんの数パーセントの斥候部隊に過ぎません。その巣の中心部、天井裏や壁の内部には、毎日何匹もの子供を産み続ける親ねずみと、それを守る多くの仲間たちが潜んでいます。市販の粘着シートを数枚置いたところで、捕まるのは、警戒心の薄い若いねずみか、運の悪い個体だけ。賢い親ねずみは、仲間の死を学習し、その場所を避けるようになります。また、ねずみの被害範囲を正確に特定することは、専門的な知識と経験を持つプロでなければ不可能です。壁に残された黒いこすり跡(ラットサイン)や、フンの状態から、彼らの主要な活動ルートや、侵入経路を見つけ出し、そこにピンポイントで罠を仕掛ける。この調査なくして、効果的な駆除はありえません。中途半端な駆除は、結果的にねずみに時間を与えるだけであり、その間に彼らは繁殖を繰り返し、家の断熱材を巣の材料にし、電気の配線をかじり、家の資産価値を着実に蝕んでいきます。ねずみ駆除は、単なる虫退治ではありません。それは、家の構造と、家族の健康を守るための、専門的な医療行為に等しいのです。早期にプロの診断を仰ぎ、適切な治療を施すこと。それが、結果的に最もコストを抑え、あなたの家を救うための、賢明な判断と言えるでしょう。
ねずみ駆除を自分で試みるのが危険な理由