そのグロテスクな見た目から、多くの人々に蛇蝎のごとく嫌われるゲジゲジ。家の中で見かけようものなら、悲鳴と共に、殺虫スプレーの集中砲火を浴びるのが常です。しかし、一呼吸おいて、彼らの生態を冷静に観察してみると、実は私たち人間にとって、非常に有益な働きをしてくれている「益虫」としての側面が見えてきます。ゲジゲジが益虫と呼ばれる最大の理由は、その「食性」にあります。彼らは、完全な肉食性のハンターであり、その餌となるのは、私たちが「害虫」と呼んで忌み嫌う、様々な虫たちなのです。その長い触角で獲物の存在を感知し、たくさんの脚で驚異的なスピードで獲物に近づき、毒のある顎(顎肢)で瞬時に捕らえます。彼らの狩りのターゲットとなるのは、ゴキブリ(特に、その幼虫)、クモ、ダニ、ノミ、蚊、ハエ、そして紙魚(シミ)といった、家屋内で繁殖し、衛生上・経済上の被害をもたらす害虫ばかりです。例えば、一匹のゲジゲジは、一晩のうちに数匹のゴキブリの幼虫を捕食するとも言われています。つまり、家の中でゲジゲジが生きているということは、彼らが、私たちの代わりに、日夜、害虫パトロールを行い、その数をコントロールしてくれている、ということなのです。化学的な殺虫剤を使わずに、生態系の力で害虫の数を抑制してくれる、いわば「天然の殺虫剤」であり、「家の用心棒」とも言える存在です。もちろん、だからといって、ゲジゲジと家の中で共存したいと思う人は少ないでしょう。その不快な見た目は、やはり許容しがたいものです。しかし、ゲジゲジを家で見かけるということは、「あなたの家には、彼らの餌となる、もっと多くの害虫が潜んでいますよ」という、家からの危険信号と捉えることもできます。ゲジゲジをただ駆除するだけでなく、彼らがなぜそこにいるのか、その根本的な原因(他の害虫の発生や、湿度の高さ)に目を向け、住環境そのものを改善することが、真の問題解決へと繋がるのです。
ゲジゲジが益虫と呼ばれる本当の理由