チャバネゴキブリを発見した時、多くの人がまず頼るのが、ドラッグストアなどで手軽に購入できる市販の殺虫剤でしょう。しかし、これらの市販薬だけで、繁殖力の高いチャバネゴキブリを完全に駆除することは、極めて困難であると言わざるを得ません。市販薬での対策には、いくつかの根本的な「限界」が存在します。まず、目の前のゴキブリを退治するための「殺虫スプレー」ですが、これはあくまで対症療法に過ぎません。壁の裏や什器の隙間に潜む、巣の中にいる何百匹もの仲間には、全く効果がありません。また、チャバネゴキブリは薬剤への抵抗性を獲得しやすいため、同じスプレーを使い続けていると、だんだん効かなくなってくることもあります。次に、部屋全体に殺虫成分を行き渡らせる「燻煙(くんえん)剤」ですが、これも万能ではありません。煙は、冷蔵庫の裏や、密閉された調理器具の内部といった、チャバネゴキブリが好む狭い隙間の奥深くまで、完全には到達しにくいという弱点があります。さらに、最も大きな問題は、燻煙剤の成分が、ゴキブリの卵(卵鞘)にはほとんど効果がないことです。そのため、一度駆除して安心していると、数週間後には生き残った卵から幼虫が孵化し、再び繁殖を始めてしまうのです。市販の「ベイト剤(毒餌)」も、プロが使用するものに比べると、有効成分の濃度や、ゴキブリを誘引する効果が弱い場合があります。また、素人が設置する場合、どこに置けば最も効果的かという、専門的な判断が難しく、効果を十分に発揮できないことも少なくありません。もちろん、これらの市販薬は、発生初期の段階や、プロによる駆除後のメンテナンスとして使用するには、非常に有効です。しかし、すでにチャバネゴキブリが店や家の中に定着し、繁殖を始めている状態で、市販薬だけで戦おうとすることは、竹槍で戦車に挑むような、無謀な戦いと言えるかもしれません。