庭先で見つけた蛞蝓を、子供が珍しがって触ろうとしている。あるいは、家の中に侵入してきた一匹を、ティッシュ越しにつまむのもためらわれる。その直感的な嫌悪感は、実は、私たちの身を守るための、極めて正しい防衛本能かもしれません。蛞蝓は、その見た目の不快さ以上に、私たちの健康を脅かす、見えない「危険」をはらんだ生き物なのです。その最大の危険性、それは「寄生虫」の存在です。蛞蝓やカタツムリは、「広東住血線虫(かんとうじゅうけつせんちゅう)」という寄生虫の中間宿主となることが知られています。この寄生虫は、本来はネズミの肺動脈に寄生するものですが、その糞と共に排出された幼虫を蛞蝓が食べることで、その体内に寄生します。そして、もし人間が、この寄生虫を持った蛞蝓に直接触れたり、あるいは、蛞蝓が這った後の野菜などを、知らずに生で食べてしまったりすると、寄生虫が人間の体内に入り込んでしまう可能性があるのです。人間の体内に入った広東住血線虫は、成虫になることはできずに死滅しますが、その過程で脳や脊髄に移動し、好酸球性髄膜炎という、激しい頭痛や発熱、麻痺などを引き起こす、重篤な病気の原因となることがあります。日本での感染例は稀ですが、死亡例も報告されており、決して軽視できないリスクです。したがって、蛞蝓に対しては、以下の鉄則を絶対に守ってください。第一に、「絶対に素手で触らない」。第二に、「駆除した後は、必ず石鹸で手をよく洗う」。第三に、「蛞蝓が這った可能性のある野菜は、必ずよく洗ってから食べる」。これは、家庭菜園などを楽しむ方にとっては特に重要です。また、ペットが蛞蝓を食べてしまうことでも感染のリスクがあるため、犬や猫を飼っているご家庭では、庭の蛞蝓駆除はより重要となります。蛞蝓は、ただの不快な生き物ではありません。それは、潜在的な健康リスクを運ぶ、危険な媒介者でもある。その事実を、決して忘れないでください。