家の中にねずみがいる、という事実は、精神的なストレスや、家屋へのダメージだけでなく、私たちの「健康」に対する、見えない脅威をももたらします。その最大の感染源となるのが、キッチンや部屋の隅に、何気なく落ちている「ねずみのフン」です。この小さな黒い粒は、単なる不快な汚れではありません。それは、様々な病原菌やウイルスを内包した、極めて危険な存在なのです。ねずみは、不衛生な下水道やゴミ捨て場などを徘徊しているため、そのフンや尿には、食中毒の原因となる「サルモネラ菌」や、腎症候性出血熱といった重篤な病気を引き起こす「ハンタウイルス」、あるいは黄疸や発熱を伴う「レプトスピラ菌」などが含まれている可能性があります。これらの病原体は、乾燥したフンが砕けて空気中に舞い上がった粉塵を、私たちが呼吸と共に吸い込むことでも感染するリスクがあるため、掃除の際には細心の注意が必要です。もし、家の中でねずみのフンらしきものを見つけても、絶対に素手で触ったり、乾いたほうきで掃いたりしてはいけません。正しい掃除方法は、まず、使い捨てのゴム手袋とマスクを着用することです。次に、ふんとその周辺に、消毒用のアルコールスプレー(エタノール濃度70%以上のもの)か、あるいは希釈した塩素系漂白剤を十分に吹きかけ、湿らせます。これは、ふんが砕けて粉塵が舞い上がるのを防ぐと同時に、病原体を消毒するための重要な工程です。数分間放置して薬剤が浸透したら、ペーパータオルを使って、ふんをそっとつまみ上げるようにして取り除き、ビニール袋に入れます。ふんを取り除いた後も、その場所を再度薬剤で念入りに拭き上げ、消毒します。使用したペーパータオルやゴム手袋も全てビニール袋に入れ、口を固く縛ってから可燃ゴミとして処分します。そして、作業が終わったら、石鹸と流水で、徹底的に手洗いを行ってください。たった一個のふんでも、この手順を省略してはいけません。正しい知識と手順が、あなたと家族の健康を、見えない脅威から守るのです。
ねずみのフンがもたらす健康被害と正しい掃除方法