普段はそれほど気にならないのに、雨が降った日の翌朝になると、決まって、玄関先や庭、駐車場のコンクリートの上などに、おびただしい数の蛞蝓が這い出していて、ぞっとした。そんな経験はありませんか。なぜ、彼らは雨の日に、これほどまでに大量発生するのでしょうか。その理由は、彼らの体の構造と、生存戦略に深く関わっています。蛞蝓の体は、そのほとんどが水分でできており、皮膚は粘液で覆われているだけで、乾燥から身を守るための硬い殻を持っていません。そのため、乾燥は彼らにとって最大の敵であり、晴れた日の昼間などは、わずかな時間で干からびて死んでしまいます。だからこそ、彼らは普段、土の中や落ち葉の下といった、湿度の高い場所に身を潜めているのです。しかし、雨が降ると、状況は一変します。空気中の湿度が100%近くになり、地面も濡れているため、彼らにとっての最大の弱点である「乾燥」のリスクが完全になくなります。これにより、これまで隠れ家に潜んでいた全ての個体が、安心して外に出て、餌を探したり、交尾相手を探したりするための、絶好の活動時間となるのです。また、雨によって土の中に水が溜まりすぎると、息苦しくなって地上に出てくる、という側面もあります。つまり、雨の日の大量発生は、彼らが「増えた」のではなく、「隠れていた個体が一斉に出てきた」結果なのです。この事実は、あなたの家の周りに、あなたが想像する以上の数の蛞蝓が、普段から潜んでいることを意味しています。大量発生に遭遇した場合の対策として、最も手っ取り早いのは、ほうきとちりとりで物理的に集めて、駆除することです。ただし、絶対に素手では触らないでください。そして、より重要なのが、雨が降る前の「予防策」です。雨が降る予報が出たら、その前日の夕方に、家の周りや庭に、粒状の駆除剤や、コーヒーかすなどの忌避剤を撒いておきましょう。これにより、雨と共に活動を始めた蛞蝓が、それらを食べて駆除されたり、嫌がって近寄ってこなくなったりします。天候を予測し、先手を打つ。それが、雨の日の憂鬱な光景を繰り返さないための、賢い戦略です。