キッチンの床を歩くアリを、一匹、また一匹とティッシュで潰していく。しかし、気づくとまたどこからか現れる。この終わりのない戦いに、うんざりした経験はありませんか。なぜ、アリはこれほどしぶといのでしょうか。その答えは、彼らの持つ「社会性」に隠されています。そして、この社会性を理解することこそが、「巣ごと駆除」が鉄則である理由を教えてくれます。アリのコロニー(巣)は、一匹の「女王アリ」と、その子供である多数の「働きアリ」で構成された、高度な分業社会です。女王アリの唯一の仕事は、巣の奥深くでひたすら卵を産み続けること。彼女はコロニーの心臓部であり、繁殖の全てを担っています。一方、私たちが家の中で目にするアリは、全て働きアリです。彼女たちの役割は、餌を探して巣に運び、女王アリや幼虫の世話をし、巣を守ること。つまり、働きアリはコロニーを維持するための労働力であり、極端に言えば「消耗品」なのです。目の前の働きアリをたとえ百匹駆除したとしても、巣の中にいる女王アリが健在で、毎日数百個の卵を産み続けている限り、働きアリは次から次へと補充されます。これは、蛇口から水が漏れているのに、床にこぼれた水を雑巾で拭いているだけのようなもの。蛇口を締めない限り、水は決してなくなりません。アリ駆除における「蛇口を締める」行為が、すなわち「女王アリを駆除する」ことなのです。ここで活躍するのが、毒餌(ベイト剤)です。この駆除方法の巧みな点は、働きアリの「餌を巣に運ぶ」という習性を逆手に取り、彼女たちを毒の「運び屋」として利用する点にあります。働きアリが運んだ毒餌を、巣の中の女王アリや他のアリたちが食べることで、コロニー全体を内部から崩壊させることができるのです。家の中で見かけるアリは、巨大なアリ帝国のほんの一部に過ぎないという事実を認識し、その根城である巣と女王を叩くこと。それこそが、アリとの戦いに終止符を打つ唯一の方法なのです。
一匹退治しても無意味!アリ駆除は「巣ごと」が鉄則な理由