地上三十メートルを超える高層マンションの十階に住んでいた私は、虫の悩みとは無縁の生活を送れると確信していました。蚊やハエさえもほとんど見かけないその清潔な環境で、私は平気で夜間に洗濯物を外へ干し、そのまま朝まで放置する生活を続けていました。しかし、ある秋の始まり、その平穏は突如として破られました。寝室のクローゼットの奥で、信じられないほど立派なゴキブリを発見したのです。どこから入ったのか、徹底的に調査した結果、犯人は紛れもなく「夜の洗濯物」でした。調査会社の方の説明によれば、高層マンションのベランダは、下層階よりも風が強く乾燥しているため、水分をたっぷりと含んだ夜間の洗濯物は、周囲の乾燥した空気の中で、はるか遠くからでも感知できる強力なビーコンとして機能してしまうのだそうです。さらに、ベランダの手すりに付着した微細な汚れや、エアコンの室外機から出る水なども、彼らが上へと登り続けるための補給基地になります。私の家の場合、お気に入りの柔軟剤の甘い香りが、彼らの探索行動を加速させていたことが分かりました。洗濯物を取り込むとき、私は一応バサバサと振ってはいましたが、彼らは一度布にしがみつくと、遠心力に耐えるほど強力な爪を持っています。その一匹がタオルの重なりの中に潜み、そのままクローゼットまで運ばれたのでした。この騒動以来、私はベランダという空間への認識を改めました。高層階であっても、そこは外部の世界と繋がった境界線であり、夜という時間は彼らの主戦場です。私はベランダにセンサーライトを設置し、夜間に何かが動けば光で威嚇するようにしました。さらに、洗濯物を外に干す時間を大幅に短縮し、完全に太陽が出ている間だけに限定しました。夜に干さなければならない場合は、専用の防虫メッシュカバーを必ず使用しています。高層階だから大丈夫、という根拠のない自信が、結果として最も不快な遭遇を招くことになったという事実は、私にとって大きな教訓となりました。建物がどれほど高く、新しくても、自然界の生き物たちの生命力と適応能力を侮ってはいけない。清潔な衣類を身に纏う喜びを守るためには、こうした見えない脅威に対する正しい知識と、それを防ぐための毎日の小さな努力が不可欠であることを痛感しています。