ある初夏の朝、玄関脇のレンガの隙間に、一匹の小さな蜂が頻繁に出入りしているのを見つけました。体長は一センチメートルほどで、お尻に黄色い帯がある、どこか可愛らしい姿の蜂でした。最初は巣を作っているのではないかと不安になりましたが、よく観察してみると、その蜂は泥を丸めた塊を口に咥えて運んでは、レンガの奥へと消えていくのです。調べてみたところ、その正体は「ミカドドロバチ」という、単独で生活する小さな蜂であることが分かりました。彼らはスズメバチのように大きな共同住宅を作るのではなく、既存の穴や隙間を利用して、子どもが育つための小さな個室をいくつか作るという、実に質素で工夫に満ちた生活を送っていました。観察を続けるうちに、この小さな蜂がいかに献身的な親であるかが分かってきました。親蜂は穴の中に卵を産むと、そこに麻酔をかけて動けなくした小さな芋虫を何匹も運び込みます。これは、孵化したばかりの幼虫が食べるための新鮮な食料です。必要な数の食料を詰め終わると、親蜂は泥を使って入り口を完璧に封鎖し、そのままどこかへ去っていきます。親は子どもが孵るのを見ることなく、ただ未来を託して自分の仕事を全うするのです。この一連のドラマが、私の家の玄関先という、日常のすぐ傍で繰り広げられていることに深い感動を覚えました。小さな蜂にとって、人工的な構造物の隙間は、天敵から身を守り、子孫を残すための絶好のシェルターなのです。幸いなことに、ドロバチは非常に温厚な性格で、人間が巣の入り口を指で塞いだりしない限り、刺してくることはありません。彼らにとって私は、単にそこにある巨大な山のような存在に過ぎないのでしょう。玄関先に小さな蜂が巣を作ると聞けば、多くの人は駆除を真っ先に考えるかもしれません。しかし、もしそれが単独性の蜂であれば、しばらく見守ってあげるという選択肢もあります。産卵が終われば親はいなくなり、入り口の泥も乾燥して目立たなくなります。そして翌年の春、そこから新しい世代が旅立っていく。そのサイクルの断片を垣間見ることは、図鑑では得られない貴重な体験となりました。小さな蜂が選んだその場所が、彼らにとっての安住の地であるならば、共生という形でその営みを尊重してあげたい。そんな風に考えられるようになったのは、この小さな観察記録があったからです。
玄関先の隙間に巣を作る小さな蜂の不思議な観察記録